厚生労働省が発出する保健行政関連の文書の読み解き方
このページの目的
医師をはじめとする保健医療職にとって,厚生労働省が発出する各種の文書は難解かつ回りくどく,うんざりすることが多いでしょう.
一方で,厚生労働省が示す方針を正しく理解しないと現場が混乱することも事実です.
このページでは,ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVワクチン)を例に,行政文書および関連法令の読み解き方のホンの一端をお示しします.
行政文書の性質
なぜ行政文書や法令はかくも読みづらいのか?あまりの読みづらさに怒りや批判の声を上げる医療職も少なくありません.
サイト管理者の推測に過ぎませんが,次の理由が挙げられるでしょう.
- 文字だけですべての情報を伝えようとするから
- 「文字だけですべてを過不足なく伝える」ことが行政文書の根本です.法令はその究極ですね.行政文書は,時に表を使うことはあっても,イラストや図を使うことは決してありません(※).イラストや図は伝わりやすい反面,曖昧さが残ったり意味が不用意に拡大することがあります.それを避けるためなのか,行政文書は必ず文字だけですべてを伝えようとします.
- (※)俗にポンチ絵と呼ばれる1枚イラストが添付されることもありますが,あくまでも補助的な位置づけです.正式には文書だけで伝えます.
- 「文字だけですべてを過不足なく伝える」ことが行政文書の根本です.法令はその究極ですね.行政文書は,時に表を使うことはあっても,イラストや図を使うことは決してありません(※).イラストや図は伝わりやすい反面,曖昧さが残ったり意味が不用意に拡大することがあります.それを避けるためなのか,行政文書は必ず文字だけですべてを伝えようとします.
- 文章の論理的な整合性だけを追求しており,読みやすさは全く考慮外だから
- 行政が発する情報には基本的に曖昧さは許されません.ゼロか一か明確に決められるのが大原則です.これを文字だけで正確に伝えるには,文章の論理的な整合性が極めて重要です.どう読んでも結論が一意にしか定まらない文章が求められ,そのためには論理的な正しさが必須であり,必然的に読みやすさは度外視されます.
- 行政文書,特に法令にはやたらに長すぎる1文がしばしば登場します.これも論理的整合性のためだと理解できます.長すぎるからと2文以上に分割すると,前文と後文のつながりが曖昧になって結論が一意に定まらないおそれが生じます.そのためどんなに長くても1文にする傾向があります.
- そういうお作法だから
- どんな業界にも特有の文章構成法,お作法があるでしょう.その業界に長くいると違和感を感じないのに,外の業界から見ると癖のある文章に見えることがしばしばあります.行政文書,すなわち役所が作る文書にもそういう傾向はあります.仮に新人がお作法から外れた文章を書くと,上司や先輩が役所のお作法に従った文章になるよう添削します.文章のお作法をまとめたマニュアル類も役所内部にはあります.
行政文書の分類
法令を含めて,行政文書は次のような階層構造になっています.とても大事ですのでしっかり覚えてください.
広く国民に周知されるもの | 分類 | 実際の名称 | 制定・改正権者 | 目的 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
憲法 | 日本国憲法 | 国会および国民 | 政府の構成および行動を規定する | ||||
法律 | ◯◯に関する法律 ◯◯法 |
国会 | 政府および日本居住・滞在の人々の行動を規定する | ||||
政令 | ◯◯法施行令 | 内閣 =内閣総理大臣+各大臣 |
法律の細目のうち複数省庁に関係する内容を規定する | ||||
省令 | ◯◯法施行規則 | 大臣 | 法律の細目のうち所管省庁だけが担当する内容を規定する | ||||
告示 | ◯◯を改正する件 ◯◯に関する指針 |
内閣または担当大臣 | 官報に掲載される政府発表 法令改正を知らせたり,特定の政策についての政府の大枠の指針を知らせる 発表であって法的拘束力はないが,一部の告示には実質的な法的拘束力がある | ||||
対象組織だけに周知されるもの† | |||||||
訓令 | ◯◯に関する訓令 | 省庁内の上級官庁 | 省庁内の上級官庁が下位官庁を指揮命令する 法律のように条文があるのが通例 | ||||
通達 | ◯◯について ※発簡番号‡あり |
省庁内の各部署 | 省庁内の上位部署から下位部署に,新たな法解釈や業務を指揮命令する 条文はなく散文で書かれるのが通例 | ||||
通知 | ◯◯について ※発簡番号‡あり |
省庁内の各部署 | 省庁が指揮命令権限のない組織に,新たな法解釈や要請事項を伝達する散文 | ||||
事務連絡 | ◯◯について ※発出日付のみ‡ |
省庁内の各部署 | 省庁が指揮命令権限のない組織に,法解釈以外の細々とした整理事項や要請事項を伝達する散文 |
- †原則として対象組織だけに直接周知されますが,参考情報として各省庁のウェブサイトに掲載されることもしばしばあります.
- ‡文書の一番右上にある「□■発xxxx第◯号 令和◯年◯月◯日」の前半が「発簡番号」と呼ばれる通し番号です.過去の通知を文章中で引用する場合は「文書タイトル+(日付+発簡番号)」で表記します.
- 事務連絡には発簡番号がなく発出日付「令和◯年◯月◯日」のみが記載されます.過去の事務連絡を文章中で引用する場合は「文書タイトル+(日付)」で表記します.