差分

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{|class="wikitable" style="max-width:500px;"
|-
!style="width:7em;"|
!AstraZenecaワクチン
|-
{|class="wikitable" style="max-width:500px;"
|-
!style="width:7em;"|
!AstraZeneca
|-
{|class="wikitable" style="max-width:500px;"
|-
!style="width:7em;"|
!AstraZeneca
|-
!実薬
|valign="top"|
ベクターウイルス量
{|class="wikitable" style="max-width:500px;"
|-
!style="width:7em;"|
!AstraZeneca
|-
!一次エンドポイント一次<br>エンドポイント
|valign="top"|
*COVIDの発症が減少するか?
**Methods欄には接種回数及び接種後期間の明記はないが,Resultsを読むと「2回目接種の14日後以降」のCOVID発症を評価していることがわかる
|-
!二次エンドポイント二次<br>エンドポイント
|valign="top"|
*Methods欄には明記なし
**追跡予定期間の明記なし
|}
 
==ウイルスベクターワクチン治験:効果 Vaccine Efficacy==
 
下表において「平均追跡期間」はいずれも論文中にはありません.論文中に記載された人年/人日と解析対象人数/at risk人数から,私が逆算したものです.
 
どのワクチンも「2回目の7/14日後以降」という極めて短期間でエンドポイントを見ているため,予防効果がどれぐらいの期間続くのか予想できません.せめて2回目接種からCOVID発症までの平均追跡期間を見ることで,「60%や95%というVEが保たれるのは平均で少なくともどのぐらいの期間か」を考えることができます.
 
もちろん,3論文ともKaplan-Meier法による累積発症グラフを掲載しており,そちらの方が視覚的にわかりやすいです.是非ご参照ください.著作権の関係でグラフを本ページに転載することができないため,代わりに平均追跡期間を計算した次第です.参考程度にお考えください.
 
なお,AstraZenecaワクチンのVEの解釈については,表の後に追加コメントがあります.
 
{|class="wikitable" style="min-width:500px;"
|-
!style="width:7em;"|
!colspan="3"|AstraZeneca
|-
!rowspan="4"|一次<br>エンドポイント
|colspan="3" style="text-align:center;"|'''2回目14日後以降のCOVID発症'''
|-
|valign="top"|
*LD→SD投与群<br>(COV002の一部)
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬LD→SD群
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|3人<hr>1,367人
|align="middle"|30人<hr>1,374人
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|90.0% (67.4-97.0)
|-
!style="width:50%;"|実薬群人日
!style="width:50%;"|プラセボ群人日
|-
|align="middle"|73,313人日<hr>平均追跡期間 53.6日
|align="middle"|72,949人日<hr>平均追跡期間 53.1日
|}
 
|valign="top"|
*SD→SD投与群<br>(COV002の一部+COV003)
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬SD→SD群
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|27人<hr>4,440人
|align="middle"|71人<hr>4,455人
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|62.1% (41.0-75.7)
|-
!style="width:50%;"|実薬群人日
!style="width:50%;"|プラセボ群人日
|-
|align="middle"|174,986人日<hr>平均追跡期間 39.4日
|align="middle"|174,279人日<hr>平均追跡期間 39.1日
|}
 
|valign="top"|
*LD/SD問わず全集計<br>(COV002+COV003)
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬群すべて
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|30人<hr>5,807人
|align="middle"|101人<hr>5,829人
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|70.4% (54.8-80.6)
|-
!style="width:50%;"|実薬群人日
!style="width:50%;"|プラセボ群人日
|-
|align="middle"|248,299人日<hr>平均追跡期間 42.8日
|align="middle"|247,228人日<hr>平均追跡期間 42.4日
|}
|-
|colspan="3" style="text-align:center;"|'''2回目14日後以降の無症候COVID感染'''
|-
|colspan="3" valign="top" align="center"|
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬群
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|29人<hr>3,288人
|align="middle"|40人<hr>3,350人
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|27.3% (-17.2-54.9)<br>※統計学的有意差なし
|-
!style="width:50%;"|実薬群人日
!style="width:50%;"|プラセボ群人日
|-
|align="middle"|151,673人日<hr>平均追跡期間 46.1日
|align="middle"|152,138人日<hr>平均追跡期間 45.4日
|}
|-
!二次<br>エンドポイント
|colspan="3"|
|}
 
===AstraZenecaのVEの解釈===
AstraZenecaワクチンの「LD→SD投与群」の VE が90.0%であることにはちょっと注意が必要です.<br>
95%信頼区間の下限は 0 よりも上(67.4%)なので統計学的有意差は危険率5%で検出されているのですが,SD→SD投与群の VE 62.1% に比べてずいぶん乖離があります.
 
この点には,治験担当者自身が discussion で下記のようにコメントしています.
{{Quote
|content=
<div style="font-size:1.1em;">
there is a possibility that '''chance''' might play a part in such divergent results
</div>
(「こうした結果の不一致には,'''偶然'''が寄与している可能性がある」)
}}
 
「偶然」?
 
ややこしいのですが,統計学的有意差は検出されているので,「LD/SD群がプラセボに比べて予防効果がある」ことは確かでしょう.<br>
でも,「SD/SD群が60%台なのにLD/SD群は90%台というのは何だか不思議だね納得しにくいね」ということを治験担当者たちは考えたようです.<br>
つまり,「有意差はあっても90%という見かけの数字は大きすぎ=偶然に良い数字になっちゃったのかもね」と治験担当者が考えているということです.
 
偶然に良い数字なのだとしたら,神のみぞ知る真の VE は何%ぐらい?<br>
それは神にしかわからないのですが,それを推測する材料が95%信頼区間と,「元々意図していた投与量」であるSD→SD群での結果です.
 
95%信頼区間の下限が67.4%ということは,真の VE が 67.4% かもしれないし 70% かもしれないし,80%かもしれません.「元々意図していた投与量」であるSD→SD群での VE が 62.1% だったんですから,LD→SD群の真の値も低めに見積もった方が無難かもしれません.
 
治験担当者が「偶然」と書いたのはそういう意味合いだと理解していいでしょう.
<hr>
それでもLD→SD群の90%が真の値に近いかもしれないなら,SD→SD群より良い結果になった理由の推測は?<br>
この先は私の“妄想”レベルですのでご参考までに.
 
ひとつ想像できるのは,LD→SD群の接種間隔です.当初4週間を計画していたのが,ワクチンロット検定不具合から大幅に接種間隔が延びてしまいました.半数以上の参加者が12週以上(3ヶ月以上)の接種間隔であり,SD→SD群より長くなりました.この接種間隔の長さが,より良いブースター効果を生んだのかもしれません.
 
体内で増殖した病原体抗原(ワクチン由来も含む)は複雑な免疫応答を惹き起こしますが,中心になるのはB細胞の活性化とそれに続く形質細胞およびメモリーB細胞への分化です.各所のリンパ節や脾臓にある胚中心(germinal center)で一連のB細胞の分化と親和性成熟が進んで十分量の特異抗体が産生されるようになるまでに,およそ4週間かかるとされています.
:(※詳しくは免疫学の教科書をご参照ください.あるいは成書 Plotkin's Vaccines 7th ed. の Section 1 > 2 Vaccine Immunology > Vaccine Antibody Responses のチャプターにも詳しく書かれています.[https://www.youtube.com/watch?v=qGsyBwDVnTU こちらのYouTube動画も美しいアニメーションでまとまっています])
 
初回接種から4週間かけてB細胞が活性化→分化しますが,分化してできた形質細胞は寿命が短いため,分泌される抗体量はいったんゼロ近くまで減少してしまいます.その後に再び病原体抗原にさらされる機会があれば---ワクチンであれば2回目を接種すれば,メモリーB細胞が7日以内という短期間に一気に形質細胞に分化し,低下していた抗体分泌を再び活発にします.再刺激された抗体産生は初回接種よりも多くかつ長く保たれます.<br>
これがワクチンのブースター効果です.
 
ただし,胚中心で開始されたB細胞の親和性成熟のプロセスは,胚中心が数週後に消失した後も,数ヶ月間は持続するとされています.ということは,初回接種から時間が経てば経つほど,B細胞は病原体抗原に対してより強い親和性を獲得=抗原によりフィットする抗体が産生できるようになります.よって,初回からブースター接種までの時間がより長くなれば,より効果の高い抗体をメモリーB細胞→形質細胞が大量生産してくれることになります.
 
LD→SD群がSD→SD群よりも本当に VE が高かったのであれば,「接種間隔が延びてしまったことがB細胞の親和性成熟をより促し,結果的に免疫がより強くなった」が理由かもしれません.
 
もうひとつ想像するなら,初回接種の抗原量が少なかったことにも理由があるかもしれません.<br>
一般に初回接種の抗原量を少なめにすると,胚中心でのB細胞(の分化過程である中心細胞)の濾胞樹状細胞に対する競合がより強くはたらき,親和性B細胞がより強く選択されることもあると考えられています.それは結果的にブースター接種での抗体産生を高くします.
 
さらに,AstraZenecaワクチンがウイルスベクターワクチンであることにも想像が及びます.<br>
チンパンジーアデノウイルスをベクターとして利用していますが,ベクターウイルス粒子そのものへの免疫が惹起されたとしても不思議ではありません.すると,初回ウイルス量が少ない方がベクターウイルスへの免疫が相対的に弱く獲得され,2回目接種でのベクターウイルスへの攻撃も相対的に弱くなり,その結果より多くのSARS-CoV-2遺伝子がヒト細胞に導入されて抗原産生が2回目接種で相対的に増えたのかもしれません.
 
以上,どれも私の“妄想”レベルですから,「見てきたようなウソを言い」程度に読み流してください.
 
 
==ウイルスベクターワクチン治験:有害事象==
{|class="wikitable" style="max-width:500px;"
|-
!
!AstraZeneca
|-
!style="width:4em;"|有害事象
|valign="top"|
''治験進行中のいかなる症状も自発的に報告''
{|class="wikitable"
|-
!
!style="width:33%"|実薬群
!style="width:33%"|プラセボ群
|-
!重篤有害事象
|align="right"|79人・84件
|align="right"|89人・91件
|-
!死亡
|align="right"|1人
|align="right"|3人
|}
*重篤有害事象の内訳は実薬群とプラセボ群のいずれにも明らかな偏りはない
*実薬群2回目接種の14日後に発生した横断性脊髄炎1件は,独立委員会が特発性idiopathicと判断したため,治験担当者はワクチンとの関連している可能性があると判断
*死亡計4人の死因は,交通事故,鈍的傷害,殺人,真菌性肺炎
|}
 
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