コロナワクチン 免疫低下状態・悪性腫瘍患者
総論 | ||||||
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治験+承認後研究 | |||||||
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更新履歴
日付 | 更新内容 |
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2021年3月26日 | 一部追記 |
2021年2月16日 | 一般公開 |
免疫低下状態・悪性腫瘍患者は治験から除外
免疫低下状態の患者はいずれの治験でも除外されています.
また悪性腫瘍を有している患者は,ワクチン接種においては免疫低下状態と同等に考えます.悪性腫瘍そのものによる免疫低下に加え,放射線療法や化学療法によって免疫抑制に拍車がかかるためです.
HIV感染者も治験での検証は不十分
HIV感染者については,Pfizer治験ではCD4≧200の安定したHIV感染者が参加者に含まれていましたが,phase 3論文での解析からは除外されています.
AstraZeneca治験でも一部のアームでHIV感染者が含まれていますが,やはりphase 3論文での解析からは除外されています.
Moderna治験では治験そのものから除外されています.
一般論として非生ワクチンは免疫低下状態でも禁忌ではない
現時点では,新型コロナワクチンの免疫低下状態・悪性腫瘍患者における効果と安全性はわかっていません.
ただし少なくとも,3ワクチンとも非生ワクチンですので,一般論としては免疫抑制者でも禁忌理由はないと言えます.
Pfizer, ModernaのmRNAワクチンは純粋に抗原のみが体内を循環しますし,AstraZenecaワクチンはウイルスベクターワクチンではあっても増殖能を欠失させたベクターウイルスですので免疫抑制者の体内でも増殖できずやはり抗原だけが循環することになります.
また,それらの患者のCOVID感染リスクおよび重症化リスクが高いことは言うまでもありません(CD4≧200のHIV患者のリスクについては非感染者と変わらないという研究もあります).
既知の副反応によるQOL低下と紛れ込みリスクに要注意
上述のとおり免疫低下状態での禁忌理由はないものの,特に悪性腫瘍治療中等でのQOL低下時には注意が必要です.
すなわち,発熱等の“軽微な副反応”がQOLを著しく低下させ,原疾患の治療を延期したり中止せざるを得なくなるリスクがあります.
さらに,免疫低下状態が故に,感染症を中心に種々の合併症が生じやすくなっています.接種直後に合併症が重なった場合,「紛れ込み」なのかワクチン由来の副反応なのか鑑別が困難になるリスクもあります.
免疫低下状態ではワクチンの効果が減弱する可能性がある
他方検討すべきは,免疫低下状態であるが故に,ワクチンによる免疫獲得が不十分になるおそれもあるということです.これは3ワクチンに限らずワクチン全般に言えることです.
すなわち,たとえばPfizerコミナティであれば健康成人での vaccine efficacy が 95.0% 期待できるところ,免疫低下状態での VE は95.0%を下回る可能性があるということです.
患者QOLと原疾患治療スケジュールも充分に検討して個別の判断を
以上を踏まえ,免疫低下状態・悪性腫瘍患者に対しては,接種による利益とリスクを充分に説明した上で,接種可否を決断する必要があります.
なお,もしも免疫抑制療法の開始を接種完遂まで保留できるならば,2回目接種を完遂した上で,理論的な免疫応答が完了する4週間程度の間隔を空けてから,免疫抑制療法を開始するのがベストかもしれません.ただしこれは理論的な推測のみであり,臨床研究による裏付けはありません.
いずれの選択においても,原疾患の主治医に事前にコンサルトすることは必須です.
米国CDC-ACIPの指針および英国Greenbookの記載(PDF14ページ)も参考にしてください.